高橋哲哉/東京大学大学院教授/安倍政権が狙う「戦争をする国」への道 ―三点セット「日本軍・愛国心・靖国」―
(全8回連載) / 07/06/15
06年12月8日 日本ジャーナリスト会議の集会での高橋哲哉氏の講演
高橋哲哉(東京大学大学院教授)
安倍政権は見掛けは頼りなく見え、軽く見えるが、思想的にはやはり真打登場なのだと申しました。また、三点セット、軍と愛国心、教育と靖国がこの政権の下で本格的に進められていく恐れがあると申しました。
日本は、明治維新で括弧つき近代国家を創りました。明治維新でできた日本政府は19世紀後半に日本軍を作った。それを支えるために国営の靖国神社を造ったわけです。靖国神社は1879(明治12)年、その前身の東京招魂社は1869(明治2)年にもう造られているのです。当時から新政府の軍の神社があったわけです。憲法は1889(明治22)年、教育勅語でさえ1890(明治23)年です。軍を支える国営靖国神社をまず造り、そして愛国心教育をする学校を作ったわけです。
19世紀の明治政府はこの三位一体によって、その後、対外戦争を繰り返すことができるようになったわけです。
そのシステムは先ほども言ったように、1945(昭和20)年8月15日の敗戦によって一旦解体されたにもかかわらず、いま戦後60数年を期にして、つまり21世紀に入って、日本政府が新しい日本軍を立ち上げようとしている。これが憲法の改悪です。そしてそれを支える靖国神社を造るために今、国営靖国神社、いわゆる国営化論が出てきています。その靖国神社に祀られる新しい日本軍の兵士を作るため、そしてその日本軍の戦争を支えるため、国民の意識をつくるために、教育が国家全体のものとされるなかで愛国心教育がなされようとしている。
21世紀になっている今、こういうことを日本政府がやろうとしている。
65年前の12月8日、アジア侵略、中国侵略の延長上で太平洋戦争に突入した日本ですが、それまでの歴史総体の破綻として1945年8月15日の敗戦があった。その敗戦の原点というものを、私たちはここでもう一度つかみ直す必要があります。
二度と戦争はしないという憲法を持つことになった戦後日本の出発点に立ち帰ることによって、今の安倍政権の進める国家改造計画の危険性がくっきりと浮かび上がってくるはずです。
三点セットの整備というものに対しては、強く、断固反対していくべきではないかと思います。
戦時中の靖国の映像を皆さんにご覧いただいて終わりたいと思います。
これはご存知の方も多いと思いますが「あんにょん さよなら」という映画の中に出てくる資料映像です。「あんにょん さよなら」という映画は韓国と日本の市民グループが共同して製作した靖国問題についてのドキュメンタリー映画です。その中にいくつもの興味深い開戦前の資料映像が出てくるのですけれども、これからご覧いただくのは、当時の靖国神社に陸・海軍の兵士たちが参拝している様子を中心とした光景です。
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陸軍・海軍の部隊が大鳥居から入っていって大村益次郎の銅像から第二鳥居、神門をくぐって、拝殿の前で参拝している様子。最初に大鳥居をくぐってくる集団が旗を掲げている、その中の一番左側に、ハーケンクロイツ、カギ十字、ナチスの旗があります。(注:映画の画像の説明です)
当時の映像で、最後に軍人が天皇陛下万歳を叫ぶと靖国の境内いっぱいにした兵士たちが「天皇陛下万歳」を叫んでいます。英霊の目から見れば「総理大臣万歳」といって死んだ英霊はいないのであって、「天皇陛下万歳」といって死んだのだから天皇の参拝が一番だという麻生外相の言葉がこれに通じているわけです。
ご静聴ありがとうございました。(了)
(文責:「マスコミ九条の会」ホームページ編集部)